Responsibility

夏休み中。子どもたちが私の家に居てくれる時間が長くなる。

色んな話をしてくれる。色んなやりとりを見せてくれる。

彼らはなんてエネルギー量が高いんだろう。

次男は、じっとしている瞬間がないように思える。ずっとぴょこぴょこ動いている。

私はひとり暮らしの時よりもよく疲れ、よく食べ、よく寝て、生きていることに満足する。

 

次男は、嫌だ嫌だと言いながら、宿題をこなし、彼の父親とケンカしたり、学校などでは我慢をしたり、すべきことをしようと頑張っていることがわかる。

私と長男の前では、とっても甘えているんだなということが、私も、長男も、わかってきた。

だから長男は次男の横暴を、ちょっと笑いながら受け流す場面が増えてきた。

私はそんなふたりの頑張りを見出せるようになってきた。

 

今日は私の父たちが遊びに来てくれた。

朝からテンションがおかしい次男は、長男にケンカを吹っかけまくって、2回ほど、長い長いケンカをしていた。

父に会う時だけはいい子で居てくださいと頼むと、わかったとふたりは言ってくれた。

みんなでいる間、とてもいい子でその場を楽しんでいて、とても嬉しかった。

父も、安心してくれたと思う。

私の暮らしぶりと、子どもたちが心身共に元気に育っていることを見てもらえてよかった。

 

また3人に戻って、またしてもケンカが始まりそうになった時、私はまたイライラし始めた。

でもその時、みんなでいるときはいい子にして仲良くしてくれていたことを思った。

そして、ケンカの勃発する直前に、「でも、約束通りにいい子にしてくれてありがとう。」と言えた。

「うん、そうだよ。」と偉そうに胸をそらして言う次男。

そうだね。とニヤニヤする長男。

その後はふたりに好きにしてもらおうと思って、私は別室へ行った。

するとふたりは、YouTubeを見始めた。何を見るかで言い争いはしていたけれど、すぐに静かになっていた。

私がふたりの良いところをいつもいつも見続けていれば、ふたりは不適切な行動なんてしなくてよくなるんだろうな。

せっかく子どもたちと一緒にいられる大切な時間なのだから、ただここに居てくれるだけで私が幸せであることを、いつもいつも伝えていたい。

兄弟ゲンカは子どもの課題ではあるが、兄弟ゲンカを私の前でする限りは、私も一緒になって彼らのケンカするシステムを動かしているんだろう。

兄弟ゲンカは子どもの課題ではあるが、兄弟ゲンカについて、私の責任がないとは言えない。

私はいつだって、目の前にいる人に対して、責任を持ちたいと思う。

 

責任=responsibility。

responseする能力のこと。

つまり、世界からの要請に対して、「はい、私はここにいます。」と返事をすること。

いつでも、どんなことに対しても、「私にできることをしよう」と決心していること。

それがアドラー心理学で言う「責任」の意味だと、私は野田先生と優子先生から教わった。

 

私の子どもたちは、どうだろうかと考えてみると

彼らは、わがままな彼らのままで、人々のために責任を果たそうとしていると思える。

嫌だなと思ってなんとか免れようとあがいたり、交渉したり、感情を使ったり、言い訳したり、色んなことを試してみながら、

でも最終的には、すべきことをしなきゃいけないんだよなって、あきらめて、色んなことを頑張っていると思う。

素晴らしい子ども時代を送っていると思う。

学び多く、ままならない人生を。

そして時々、思いがけない楽しみや喜びもやってくる、新鮮な毎日を。

…だから、彼らの人生は彼らに任せてみようと思う。

そう思えるのは、彼らが困った時に、ちゃんと私に話をしてくれるからだ。

「お母さんって心配性なんだね。僕はあんまり心配されたくないよ。」と長男が笑った。

 

 

 

職場の子どもたちに対して、私は自分の子どもたちに対してのように、お任せをできない場面がある。

私の「こうすべき」を押し付けてしまうことがある。

そういうときもちろん私は競合的になっていて、支配的になっていて、縦の関係を作っているから、

子どもたちは私と仲良く、協力してはくれない。

それは、子どもたちが聞き分けの悪い子なのではなくて、私のやり方がまずかったからだ。

彼らのせいではない。

彼らが不適切な行動をしているのには彼らの目的があって、それを私の目の前で止めずに続けているのは、私が相手役になっているからだ。

言語化すると、あらためて、落ち込む。でもそれがおそらくは事実だ。

それが事実であるかのように思っておくと、私にはすべきことが見えてきて、打開策があると信じられるようになる。

だから、痛いけれどこのかのようにを採用し続けようと思っている。

万人向けではないよね。だから、他の職員さんたちに布教しようとは思わない。

私ひとりでも、まだまだやるべきことがある。

 

先日、金髪にしたKちゃん。

夏休み前はほとんど登校していなかったから、頻繁に担任の先生が家庭訪問に来られる。

昨日の夕方も先生が来られた。

急いでKちゃんに内線をかけた。

「先生来られたよ。」

 「えー。今日は会わない。」

「え?会わないって…?いや、先生待っておられるから降りてきてくれる?」

 「えー嫌だ。今日は無理。帰ってもらって。」

「いやいや…」

 「帰ってって言っといて。」

「それはないんじゃないの。」

 「ねえ、他に職員おらんの?Tさんとかは?」

「Tさんは帰ったし、今は私が対応しております。」

 「えー。あ、絶対部屋に連れて来んでよ。」

「うん。先生に部屋まで行ってもらうことはしないけど。」

 「絶対だで。とにかく会いたくないから。そう言っといて。」

「んー…それは良いとは思えない。降りてくるべきだと思う。」

一旦、内線を切った。

ベテラン職員さんに相談をした。

まず先生にもう少し時間がかかることを伝えて、待ってもらえるようなら、

もう一度Kちゃんに降りてくるよう説得してみてくださいと言われた。

無理と思いますがやってみますと応え、先生のところへ行った。

「ごねてますか?全然待ちますので」と言われたため、Kちゃんに再び内線をした。

延々と鳴らすが出ない。私もボイコットされてしまった。

 

ここで引き下がるわけにはいかないので、どういう状況なのか確認だけはしなければと思って、

先生にもう少しお待ちくださいと断って、私はKちゃんの部屋へ走った。

「失礼します!」

 「来んでよ。」

寝転がって、私に背中を向けたまま不機嫌そうに言うKちゃん。

「ごめん、内線取ってくれないから。今日先生が来るっていう話はしてたの?」

 「うん。知ってたよ。」

「それは、話をしますっていうことだったんじゃないの?」

 「そうだけど、今日は会いたくないの!」

「今日会わなかったら、また別の日に来られるよ。その時はどうするの?」

 「次も会わんよ。」

「じゃあまた来られるよ。」

 「次の次は会うかもね。」

「次と、次の次とには、どういう違いがあるの?」 

 「うざい。」

見事なまでに模範的な権力争いをしている。

一度、深呼吸。

「私は、どうしたらいいの?」

 「だから、帰ってって言ってよ。」

「それは言えないよ…」

 「いいじゃん。」

「それは、Kちゃんが自分で言うべきじゃない?」

 「だから会いたくないの!」

「せめて内線で先生と話をすべきだと思う。」

 「じゃあかけてくれば。取らんけど。」

「うーん…」

Kちゃんを動かすことはできない。それはもちろんだ。

Kちゃんに何を学んでもらいたいのか?

自分のすべきことをすること。嫌でも、すべきことをすること。

それをどうやったら学んでもらえるのか?

わからない。

それに、もうここまで権力争いをしてしまったからね。今ここで挽回はできないかもしれない。

「それでいいの?Kちゃんは。」

 「まじで。うざいから。」

Kちゃん、こっちを睨む。

精一杯背伸びしようとしているけれど、幼い顔だ。

「うん。」

私、恐ろしくしつこいのよ。ごめんね。そりゃあ「うざい」でしょう。

その金髪は、自分を強く見せたいから?

全然強いとは思えないよ。全然怖くないよ。

「困ったなあ…」

 「もう…帰ってよ 笑」

呆れてちょっと笑うKちゃん。

「そうだね。わかりました。じゃあ、Kちゃんが言ったように先生に伝えます。」

 「へえ」

「失礼しました。」

 

仕方がない。Kちゃんと権力争いをしてしまった私の失敗だ。

「先生、すみません。『今日は会いたくない』と言っておりまして…

 せめて内線で自分で先生とお話しするようにと言ったのですが…

 私の対応がまずかったんだと思います。不機嫌になって、話しもしないと言われました。」

 「いえいえ、いいんです。わかりました。

  それではKさんに、金曜日の夕方にまた来ますということだけ、お伝えください。

  もし金曜日に会えなければ、火曜日に来ます。」

この暑い最中にわざわざ来てくださった先生は、来られた時と同じ笑顔で帰っていかれた。

 

私も先生も、お互いに、色々色々、対応のまずさはあるだろうけれど、

Kちゃんのことを大切に思い、心配し、なんとかして導いていきたいという思いは、私たちは同じだと思えた。

そして、私たちは絶対にあきらめない。

色々な違いを超えて、その熱い思いは同じだと思えた。

どのような形が良いかはわからないけれど、先生と協力をしていきたいと思った。

 

夜、Kちゃんに内線をかけてみた。

妹ちゃんが出てくれて、Kちゃんに代わってもらうようお願いすると、Kちゃんが出てくれた。

それだけで、私はとても嬉しくて、ほっとした。

「Kちゃん?」

 「うん。」

「出てくれてありがとう。先生が、金曜日にまた行きますとだけお伝えくださいって。」

 「…」

「そう言われたから、それだけお伝えします。」

 「…うん。」

「それでは。」

 

Kちゃん、うざかっただろうに、私の電話に出てくれた。

もう一度スタートラインには戻れたかな。

私はメッセンジャーだけの存在に成り果てることはできなかった。

責任を持つということを学んでほしいと思う。

すべきことをするように、勇気づけたいと思う。

どうしたらいいのかは、わからないけれど。

でも少なくとも、権力争いをしてしまってはダメだ。

甘やかすことなく、彼女のご機嫌をとることなく、そして彼女を責めることなく、彼女を叱ることなく、

私たちが仲間のままで、まずは彼女の話を聴かなければいけないな。

確かパセージテキスト11Lに書いてある。私の意見を言うのは、最後だったな。

明日からまた、パセージやり直しだ。