Butterfly Effect

練成講座では職場のエピソードをふたつ、取り扱ってもらった。

どちらも職員さんとのエピソードだ。

自助グループではよく子どもたちとのエピソードを扱ってもらっているけれど、職員さんを相手役にしたエピソードを出したのは初めてだった。

エピソードとして出そうと思えるようになった私の変化は大きい。

だって、これからも続く人間関係で、より良い関係を築きたいって、私が相手役さんたちのことをそんな風に思えるようになったということだから。

昨年ならば、やり過ごしたら良い相手役と思っていたかもしれないけれど、

今は私にとって、職員さんたちはみんな私の大切な仲間だと思えている。だから、もう少し良い関係になりたいって思えている。

 

練成講座から帰った次の日の朝、少し早めに職場に着いた。

おはようございますと扉を開けると、「あ、おはようございます」と、ふたつ目のエピソードの相手役の上司が挨拶を返してくれた。

私がこの二日間、はるか遠く金沢まで行っていたなんて彼女は知るわけもないけれど、

私は「おかえり」って言ってもらったように思えて、なぜか胸があたたかくなった。

私のいつもの居場所に帰ってきたって、思えた。

今は休養中の職員さんがいるから、上司は早朝6時出勤のシフトを毎日のようにこなしてくださっている。

自分のシフトをできる限り調整した上で、他の職員にシフト調整を頼んでおられる。

シフト調整の協力をありがとうございますって、いつも言ってくださる。

当たり前のように上司がしていることが、どれも、職員みんなのために職場のために、もちろん利用者さんと子どもたちのために、細やかに気を配ってしておられることなのだと気づけた。

 

エピソード分析の途中で上司の良いところやストレンクスを話しているうちに、

私が勝手に陰性感情を持っていた上司の側面が、クルクルとひっくり返って、上司の素敵なところに変わってしまったから。

私は彼女のようにならなくていい。

私は彼女を理解できなくてもいい。

彼女が私を理解できなくてもいい。

でも、私は彼女のストレンクスも素敵なところも可愛いところも、真っ直ぐに見つめて、受け入れることができるから、

私は彼女と仲間になることができる。

そんな風に勇気づけてもらえた。

 

そしてあらためて彼女を見ると、なんて素敵に、一生懸命働く方なんだろうと思った。

この上司のおかげで、私たちはどれだけ助けられているだろうかと思えた。

そんな風に、ありがたいな、嬉しいなと思って仕事をしていると、

自分は仕事ができない、認めてもらえていない、打ち解けられていない、仲良くしてもらえていない、

そんな風に感じていたのがまるで嘘のように、

その上司も、他の上司も、先輩たちも、私を信頼して仕事を任せてくれていることに気づいた。

私の話しかけたことに、みんなが笑顔で応えてくれることに気づいた。

少し苦手だったお兄さん職員さんも、私が緊張せずに話しかけると、相手もにこやかに接してくれるのだった。

私が緊張している時、きっと相手も緊張していたのだろう。

だって私は、得体の知れない生き物だから。

他のみなさんは、一番若い人でもこの会社に入ってもう7年以上になるだろう。

私は昨年入社したばかりだし、地元の人間ではないし、テレビも見ないしスポーツも興味がないし、共通の話題が非常に少ない。

どう付き合っていいかわからなくて困っていたのは、おそらくみんなの方だ。

 

30歳前後のお兄さんお姉さん職員さんたちが6人、50歳前後の職員さんたちが3人ほど居て、それぞれの動きや考え方が随分違う。

(ちなみに40歳前後の職員は私ともうひとりだけ。それから上司が4人。)

どちらかというと若い人たちは放任型の甘やかし、おばさまたちは支配型の育児方針のようだ。

特にベテランの若い人たち3人は行動力が半端なくて、瞬時に判断して動く。

若い人たち同士で連携は取っている。でも、日報の情報量が少なすぎて他の職員は何が起こっているのか把握できない、ということが多々ある。

一方で、お兄さん職員さんは、おばさま職員さんたちが書く日報は、簡潔な文章でないから何が言いたいのかわからない、自分の意見を書きすぎていて状況がつかみにくい、とことあるごとに言っている。

 

様々な考え方、様々な関わり方があって良いのだけど、互いにどんなことを考えてどういう意図で行って、どんなことをしたのか、情報共有をしてもらわないと困る、と、昨日はおばさま職員さんの愚痴を聴かせてもらった。

「こうやってMさんに聴いてもらうことで随分楽になるし、Mさんに調整してもらえたらいいなってちょっと期待もしてるのよ」と、笑って言われた。

 

問題が起きると、この立場の違いを表面化させる。

そして問題というのは、この職場では次から次へと起こるのである。

中学生の女の子が、金髪にしたら学校へも塾へも登校してはいけないと先生たちから言われているにも関わらず、夏休み前の昨晩、自分で金髪に染めた、というのが今回の問題だ。

いくら親子が納得しているって言ったって、説明はしてもらわないといけないことがあると思うし、お母さんに考えてもらわなきゃいけないこともあると思う、とおばさま職員さんは言う。

でもおばさま職員さんは、今日のミーティングはシフトの関係で出られないので、検討事項として日報を挙げることにされた。

今日のミーティングの時、お母さんと子どもに任せようよ、親子でOKって言っていることについて、職員が口を挟むことはないだろう、とお兄さん職員さんは言われた。

今まで通り、金髪になった子と普通に関わってあげてください。と言われた。

 

私にできることって何なのかなと考えた。

両者の考え方や方針の違いは、いつまでも交わらないのだろうなと思えた。

私自身の考え方や方針というのも、どちらとも違う。

私は、アドラー育児、つまり民主的な育児方針だ。

子どもに問いかけて、子どもにより良い方法を選ぶ勇気を持ってもらえるよう勇気づけることを目指している。

おばさま職員さんは、担当のお兄さん職員さんたちに対する配慮や遠慮があり、支配的に金髪の中学生やそのお母さんに指導をしたい気持ちはあるが、どう関わればよいか悩んでいるというところ。

お兄さん職員さんは、金髪にしたいという子どもの意思を尊重したいが、学校や塾に行かないという選択については、良くないと思いつつもどう伝えていけば良いかわからないというようなところだろう。

私は職員さんたちを変えることはできない。

それに、私は職員さんたちを裁くつもりもない。

彼らはいつだって愛情たっぷりで、一生懸命に、子どもたち母たちのことを考えて行動している。

私にできることは?

ー私は、金髪に染めた中学生の子と、直接関わることができる。

 

 

私は、昨晩の私のその子とのやり取りを日報に挙げることにした。

その後、今日の夕方預かりの部屋にいた彼女と話をして、そのやり取りも日報に挙げることにした。

 

昨日の晩 

母と帰宅したKちゃんの金髪を見て声をかけた。

私   「あれ、Kちゃん何人になったのん? 笑」

Kちゃん「えへへ 笑」

私   「夏休みになってから金髪にするって言ってなかった?」

Kちゃん「学校休むからいいの!先生にも言ってるし。」

私   「ふーん?塾は?」

Kちゃん「塾も行かんからいいの!」

私   「え、塾に話はしたの?」

Kちゃん「だからしてるからいいの。」

母   「でも職員さんにはちゃんと言ってないんじゃないの?」

Kちゃん「担当職員には話してるから。」

私   「そうだったんだ。担当さんに言ってるならいいんだけど。

でも金髪にしたから休んでいいっていうのは、私個人的には納得できていないよ。ちゃんと話し合いが必要だと思っているから。」

Kちゃん「そうなん。」

夜遅かったこともあり、Kちゃん親子はいそいそと部屋へ上がっていかれた。

 

今日の夕方、学校を休んで預かり室にいるKちゃんに声をかけた。

昼にお姉さん職員さんに美容院に連れて行ってもらったらしく、金髪のエクステをつけてもらい、胸の辺りまで金髪の巻き毛が垂れていた。

私   「お、急に髪伸びてる〜!」

Kちゃん「ふふ 笑 エクステつけた〜」

髪を触って、おどけてポーズを決めるKちゃん。可愛い 笑

私   「ちょっとお話聴かせて。一体どういう心境で金髪にしたくなったの?」

私もKちゃんの巻き毛を触る。

Kちゃん「あのな、もともと金髪にしたかったの。でもママにダメって言われてたの。で、友だちが茶髪に染めてきて、いいなーって思って、染めたくなったの。茶髪ならいいかなって思ってママに言ったら、もう好きにしなさい!って言われて、それでこの前茶髪にしたの。」

私   「うん。」

Kちゃん「でもね、したいことしたいって思って。夏休みの間だけ金髪にして、夏休み終わったらちゃんと学校にも塾にも行って勉強するからって決めたの。」

私   「そうなんだ。勉強はここでするつもりでいるんだね。」

Kちゃん「さっきもここで勉強してたんだよ。勉強はちゃんとするから。」

私   「それを聞いて安心した。不良になりたいんかと思ったから 笑」

Kちゃん「不良になんてならないよー!」

私   「それならよかった。…でもさ、まだ夏休みになってないんですけど?」

Kちゃん「…うん、それは…。でも先生にも言ったしいいの!」

私   「…。先生、夏休み中にも来るって言ってはったし、びっくりするやろね。急に髪長くなってるし 笑」

Kちゃん「夏休み中も来るし、今日も5時に来るって。イヤだけど。でも今日はちゃんと会うから。髪を楽しみに見に行きますって言ってたで 笑」

私   「塾については?先生と話したって言ってたけど、どんなお話したの?」

Kちゃん「金髪にするなら塾は来ないでって言われたから、じゃあ夏休み中は塾休みますって言って、わかったって言われたの。で、塾に置いてたワークとか、持って帰りなさいって言われたから、この前持って帰った。」

私   「あ、そうだったんだ。」

Kちゃん「そう。ちゃんとしてるんだから」

私   「お勉強、応援してるからね。わからないところとかあったら見るから、いつでも質問してね。」

Kちゃん「うん、ありがと。」

私   「ところで、塾のお金って、どこから出てるか知ってる?」

Kちゃん「ここ(施設)!」

私   「そうそう。だからね、お金を払っている、お財布持ってる人と、塾をどうするかっていうことは相談すべきだったと思うの。」

Kちゃん「あ!…確かに、そうだね。」

ハッとして、真面目な顔になって、応えてくれた。

私   「小学生だったらわからないかもしれないけど、もう中学生だから、お金のことも考えていこうね。」

Kちゃん「うん、わかった。」

私   「お話してくれてありがと。じゃあ、またおしゃべりしてね。Kちゃんのお話聴きたいから。」

Kちゃん「うん、いいよ♪」

 

これで、Kちゃんについての情報を周知することができた。

お兄さんお姉さん職員さんたちも、Kちゃんが学校や塾とどういう話をしたかなど、このような話を把握しているのかもしれない。

でも、お金のことについてはわかっていなかったようなので、この機会にちゃんと伝えるべきことを伝えることができたと思う。

それから、多分、今日の夕方は、私たちは平等の位置でいられたんじゃないかなと思う。

昨晩は失敗してしまったから、リベンジできたように思っている。

 

 

 

おばさま職員さんは、私が他の子どもたちに対しても、粘り強く尋ね続けて、子どもたちが自分で考えて自分で答えられるように援助しようとしているんだなって感じていますよ、と言われた。

しつこくってごめんねって思いながらも、この対応で彼らが成長していくのも実感しているので、

私は子どもたちにしつこく尋ね続けて、そしてくどい日報を書き続けている。

 

 

夜勤で来られたおばさま職員さんに、今日のミーティングやKちゃんのこと、私の対応などについて話をした。

そうやって私が対応して日報を残してもらうことで、情報が共有できるからありがたい、と言ってもらえた。

色々な職員がいて、色々な関わり方をしていくことは、きっと子どもたちのためにもなると思う、と言ってもらえた。

昨日お話を聴かせてもらって、私にできることは、子どもたちと関わることだな、って思えたんですと伝えられた。

それに、お兄さん職員さんたちが子どもたちにたくさん関わっているのも素敵だと思うから、私は私の良いと思う方法で関わって、そこで得られた情報を周知していこうと思いますと言った。

そうすると、おばさま職員さんも、お兄さん職員さんたちの良いところをたくさんお話ししてくれた。

みんながそれぞれの良いと思うやり方でやっていって、そうしたらお互いの足りないところを補い合えて、きっと良い効果が生まれていくよね、と言われた。

だって私たち職員の目標は、一致しているから。

子どもたちと利用者さんたちが安心できる居場所を作り、成長できるよう援助すること。

そこさえ一致していれば、私たちはちゃんと、仲間でいられると、私とおばさま職員さんは気付くことができた。

そのことは、きっと、お兄さんお姉さん職員さんたちとも、通じ合えることだと思える。

 

 

私たち職員が互いのことを認め合いながら、協力して一生懸命努めていれば、

それはもちろん子どもたち利用者さんたちのお役に立てるだろう。

でもそれだけではなくて、子どもたちの明るい未来や、この地域の人々の暮らしの充実や、ひいては、日本の国を、世界を良くしていくことにもつながっていくんだと、

練成講座で視野を広げていくワークを行って、そう思えるようになった。

バタフライ効果だ。

このひとつの小さな羽ばたきは、やがてトルネードを引き起こすきっかけとなるかもしれない。

それだけの物語の種が、私たちの日常にはあふれているんだ。

 

もう、私のすることに意味がないなんて、思わないでいよう。

私の言葉に眼差しに、もしも勇気づけられた誰かがいるなら、

その誰かへの感謝と敬意を込めて、私は自分のことも認めようと思う。

この小さな一歩も、きっとはるか理想郷への道に続いている。