夢と現

今日はリディア・ジッヒャーの論文のオンライン抄読会だった。

白昼夢と夢について学べた。

びっくりしたのは、昨日珍しく私が夢を見て、夢についてぶら下げていたところだったこと。

象徴を読もうと研ぎ澄ませながら生きていると、すべてがリンクしているように思える。

 

 

職場で私が一番仲良くできていない中学生のYちゃんが夢に出てきた。

広い部屋に低い小さいテーブルがいくつもあって、たくさんの人々が好きに集まっておしゃべりをしている。

私とYちゃんと誰か2人ぐらいが、ひとつのテーブルを囲んでいた。

何の話をしていたんだろう。

Yちゃんが自分の寂しさを穏やかに表現してくれたような気がする。

「仕事だからとかではなくて、私はYちゃんのことを大切に思っているから、Yちゃんのためになりたいと思っているんだよ。それは口先だけのことじゃないんだよ。」

私は熱く訴えていた。

するとYちゃんは衝撃をくらったように、胸を抑えて仰向けに倒れかけた。

私は慌ててYちゃんの背に手を回して、抱き起こした。

「本当なんだよ。」

Yちゃんは言葉もなく泣き笑いしていた。

 

そこで目が覚めた。

これは夢だよ、こんなことが起こるわけがない、と思った。

自分の暑苦しさに胸焼けしそうだった。

でも、こんな風に私が素直に感情を露わにできて、相手もそれを受け取ってくれたらいいのになと思えた。

ありえないからこそ夢なんだと思った。

Yちゃんが出てきてくれたこと、とても嬉しかった。

私は、あのいつも塩対応なYちゃんのことを大切に思っているし心配しているし、近づきたいと思っているんだなと感じて、

向こうは全然違うかもしれないのに、私はそう思っているんだって

寂しいようなあたたかいような。

可笑しくなってしまった。

やっぱり私はバカなんだなあ。

 

今朝の11時ぐらい、Yちゃんが急に降りてきて、「送って」と言ってきた。

依頼されているモーニングコールをかけると1回は無視され、

2回目は「なに?」と言われ、薬は飲めそう?と尋ねると「まだだし!」と怒られ、

その後も他の職員さんが数回かけたが無視されていた。

薬を渡しながら家族の様子を伺うと、「知らんし!」と、また怒られた。

先駐車場行っとくね、と言い残して急いで車を出す準備をした。

無言でうなずくYちゃん。

まるで私はお姫さまにこき使われる奴隷のようだね。

車に乗り込むなり、「急いで!間に合わん!」と言われた。

あなたが遅いからでしょうが。私は4時間前からスタンバってましたよ。

内心少しムッとしながらも、

「はーい!シートベルトしましたかー?しゅっぱーつ!」と笑顔を作る私。

 

不機嫌な利用者さんや子どもたちの対応に慣れた。

なんでやねんと思ったり、内心少しムッとしたりしながらも、

でもこの人とこうやって関われるのは、いつでも、ありがたいなと思える。不思議だ。

私が笑顔で落ち着いて対応していれば、相手の陰性感情が落ち着いてくることも実感している。

困っているのは相手であって、相手に対して私は何も困ることがないんだってわかってきた。

そして私は相手の役に立つことができる。たとえどんな些細なことであっても。

 

でも、今日はいつもよりも私は陰性感情を抱いていた。

Yちゃんの態度はあんまりじゃない?

雪もちらついているこんな寒い中、急いで車出して、いくらそれが私の仕事とはいえ、

朝から何回も起こしていたんだし、なんかもうちょっと感謝の気持ちとかないん?

バックミラー越しに見やると、Yちゃんはうつむいてスマホを触っている。

傍若無人。わがままなお姫さま。いつもこうなんだから。

綺麗に切りそろえられた前髪。

そこでハッとして、昨日の夢を思い出した。

Yちゃんとあたたかい関係を作りたいのは、私なんだ。

この子が大変な環境の中、一生懸命に生き抜こうとあがいているのを、私は知っている。

Yちゃんの行動は良いとは思えない。

でも、そんな小さなこと、今はどうでもいいなと思えてしまった。

わがままなお姫さまを、愛しいなと思えていた。

 

もう少し学校に近付いてから、話しかけよう。

駐車場よりも校舎の入り口に近くに車を停められるところ、今朝送っていった他の子に教えてもらったから。

「生徒玄関の近くで停めるね。その方が早く行けるでしょ。」

信号待ちの停車で、話しかけた。

ちょっと驚いて顔を上げたYちゃんは「うん。」と言った。

バックミラー越しに目が合った。

もう怒りは消えている。穏やかな目だった。

夢で見たYちゃんの目だった。それは、私の空想じゃなくて、今までに何度も私が見てきた穏やかなYちゃんの目だった。

車を停めて、「はい、着いたよ。」と後ろを振り返ると、

「うん。」と言って、穏やかに降りていく。

「行ってらっしゃい!」と私は手を振る。小さくうなずくYちゃん。

「がんばってね。」Yちゃんは静かにドアを閉めてくれた。

召使いは、お姫さまのお役に立てるのが嬉しいですよ。

そしてお姫さまが穏やかに過ごせることが、私の幸せですよ。

 

私とYちゃんがどれほど近づけるかはわからない。

Yちゃんの仲間でいたい私の気持ちに気づいてもらえたら嬉しい。

それも高すぎる望みかもしれないけれど。

夢は現実の予行演習だとアドラーが言った。

今日は私とYちゃんの物語が少しだけ良い方向へ向けたから、予行演習をしていてよかったと思った。

 

 

 

今日はなぜか中学生の送迎業務が多くて、Yちゃんの他に3人を学校まで送った。

 

 

ひとりの子は、バレンタインに職員のみなさんへと、上等なチョコレートをくれた。

彼女の家計の苦しさを知っているから、そのわずかなお小遣いから買ってくれたことが余計に嬉しくて、胸がいっぱいになってしまった。

なんかもったいなくて食べれないんですって私が言うと、私もですってひとりのお姉さん職員さんも言われた。

いや、だからこそありがたく美味しくいただくべきですよって別のお姉さん職員さんは言われた。

みんなでそんな話をしながら、普段はぶっきらぼうだけど優しい彼女のことをみんなで愛でた。

 

「チョコレートありがとう。あんな良いもんを我々職員のために!」と、今朝少し大げさにお礼を言うと、

「あはは、そうそう、良いもんだよ〜」と嬉しそうにしてくれた。

「着いたよ。行ってらっしゃい!」と言うと、

「ありがと。行ってくるわー!」と笑顔で手を振ってくれた。

 

彼女とも秋頃までは、「早く!急いで!」「わっかりました!」という姫ー奴隷関係だったな。

毎朝起こしに部屋まで行っていた頃は、これが本当に彼女のためになるんだろうかって、暗い気持ちになりながらドアを叩いていた。

今は、もう少し近づいておしゃべりできる関係になった。

私が彼女に対して楽観視できるようにもなった。

お母さんと喧嘩していた時に、仲裁(?)に入ったこともあった。

その次の日、昨日は大変だったねと声かけると、まじ疲れたわ〜って笑っていた。

高校合格おめでとう!って私が手を振って駆け寄ったら、ありがと〜ってハイタッチしてくれたこともあった。

そうだ、エピソードを重ねることで私たちは近づいていく。

私たちの物語を編んでいく。

 

 

 

また別の子は、「Mさん、今日だけ送ってください。お願いします!」と言ってきた。

「はい、送りましょう。」と言うと、「ありがとう!」と頭を下げてくれた。

「今月はたくさん送ってもらったから、もうこれからは送ってもらわずに歩いて登校します」と、他の職員さんに一筆書かされていたのを知っているけれど。

一緒に勉強してほしいと言ってくれていた子だから、今週末の私の勤務を知らせた。

お忙しくなければ、声かけてねと伝えた。

「うん」と、ちょっと笑う。

何の教科が得意?と尋ねると、「何にもできん…」と言う。

「そんなー。それだけおしゃべり上手だから、国語とかは得意そうだけど?」

「ああ、漢字はけっこうできるかな。」と、明るい声になる。

じゃあ、数学とか一緒にやろうかと言うと、そうだね、とうなずいた。

「ありがとう!」と元気よく車から降りると、何度も何度も振り返って手を振ってくれた。

 

そうだね、12月だったか、あなたが怪我で早退することになって、迎えに行って一緒に病院に行って、

長い待ち時間をおしゃべりし通したあの日から、私たちは友だちになったんだね。

帰ってきてから事務室でふたりで薬の確認をしていて、

「ちょっと待って聞いて聞いて!」

「聞いてる聞いてる」

「待って待って。あのね!だってあの先生面白すぎて話全然頭に入らんもん!」

「でも、前出した薬は使わないでくださいって言われてたやん」

「えー聞いてない。めっちゃ笑いこらえてたのMさんにバレて、もう余計に笑けてきて大変だったんだから!」

「先生が分かりましたかって聞かれたのに返事しないから、先生が変な顔して私を見て、代わりにはいって言ったげたんよ。先生にアピールせなと思って、わかった?って聞いたら、うんって応えてたやん」

「適当に言っただけだよ〜」

ときゃあきゃあ言っていたら、マクゴナガル先生に「ふたり、いいコンビだわ〜♪」と笑われた。

夏の夜、お母さんと喧嘩して泣いて飛び出してきた時に、側に座って居たこともあったな。

幾つものエピソードを重ねて、物語を編んできたね。

 

 

 

Yちゃんと良い関係を作っていくのは、彼女たちと関係を作るよりも、ずっと難しいだろう。

でもきっと、今よりは良くなれるはず。

そんな希望を、バカげた夢を、抱くことはきっと悪くはないだろう。