オペラ座の地下

野田先生がお亡くなりになった後、虚脱状態になっていた夜があった。
自分がドラマや映画を観るのが好きだったことも忘れていたことを思い出した。

 

それで、何か観ようと思い立った。
あんまり展開の早いものやテンションの高いものにはついていきたくない。
思いっきり現実離れしたものがいい。
だけどオペラを観るほどの気合いはない。
音楽が聴きたい。華やかな画がいい。
それで、オペラ座の怪人(2004年)の映画を観た。これを観るのは3回目ぐらいか。

 

現実逃避には素晴らしく最適だった。
豪華で不気味なオペラ座。華やかな舞台。大勢の歌と踊り。やっぱり私は劇場が好きだ。
ヒロインのクリスティーヌ役の女優さんがあまりに美しくて、歌も素晴らしい。
怪人の歌声が現代風なのが私の好みではないけれど、
そこはおそらくわざとそういう演出なので仕方がない。メインの音楽も若干ロック気味。

元はミュージカルなので仕方がない。
もっと完全にクラシックだったらと思いながら、でもかなり楽しんだ。

 


この映画で、というか「オペラ座の怪人」の中で、私が一番好きな場面は
クリスティーヌが怪人に手を引かれて、オペラ座の地下へと初めて導かれていくところだ。
不気味な怪人の棲家へ。
怖いんだけれど、美しくて、何が起こるんだろうとわくわくする。
この映画ではその場面でメインテーマ(The Phantom of the Opera)をクリスティーヌと怪人の二人が歌う。
クリスティーヌの顔が紅潮している。

 

優しくて深く愛してくれる、美青年のお金持ちの子爵という、完全無欠の婚約者がいるのだけど、
クリスティーヌは自分に歌を教えてくれた怪人について行くことを選ぶ。
その後クリスティーヌは元の地上の世界に帰り、
クリスティーヌは怪人と婚約者の間で揺れる。
そしてもう一度、今度は舞台上から怪人に連れ去られることを選ぶ。
最後はオペラ座の地下まで助けに来た婚約者が、怪人に殺されそうになり、
怪人に自分を捧げることと引き換えに、婚約者を解放するように頼む。
怪人は二人を解放して姿を消す。
そしてクリスティーヌは婚約者と結婚したようだ。



芸に魅せられるということはよくわかる。
芸を極めるには、常識を手放さなくては叶わない。
クリスティーヌは、怪人から離れたことで、おそらく芸を極める道からも離れたのだろう。
あの常識人の婚約者と共に居ながら、狂気のような美しい歌は歌えないだろう。
クリスティーヌの歌は、ただ芸しかなかった怪人の指導による歌なのだから。

 


芸のために生きたいと思う私がいる。
そのためなら何でも手放そうと決意している。
もう野田先生はいないのだけれど。
オペラ座の地下へ潜って行きたいと思っている。