若者たち

長期休み中に子どもたちが泊まりに来ると、3人で勉強する時間が長くなる。

私はオンライン勉強会の資料作り、長男は中学受験の入試対策、次男は冬休みの宿題。

受験目前なのだけど長男が大変落ち着いていて、

「宿題できない〜終わらない〜もうダメだ〜」とぐずぐず言っている次男にとても優しい。

「きっと終わるよ、すぐできるよ。わからないところがあったら教えてあげるから。」

そんなお兄ちゃん、私も欲しかったなあと思ったりする。

なんだかんだ言いながら、自分で気持ちを切り替えて勉強し始める次男もすごいなと思う。

今日はワークを3冊終わらせていた。

 

…いつも思うのだけど、宿題のワークは一体何冊あるんだ?

どう考えても後3日で終わらせられる分量じゃなさそうだ。

でも私は何も言わない。

私が何も言わない方が次男はきちんと出来ることを知ってしまったから。

それに、宿題をしなくて困るのは次男で、彼は長男とは違って、必ずやる男だから。

 

 

長男はいつの間にかものすごく綺麗にノートに問題を解いていくようになっていて、

間違った問題の答えではなくて解法を考えるようになっていた。

そうやってメタを使って勉強しているから、一つの問題を学ぶことで、他の似たような問題の解法が理解できる。

長男がメタを上手に使えるようになったのは、プログラミングや人狼ゲームのおかげなんだろうなあと思う。

 

もしかすると、うちの施設にいるゲームオタクの子たちも、勉強が得意になれる子は多いかもしれない。

勉強する勇気さえ持てば、彼らは自分の望むように人生を切り拓いていけるかもしれない。

 

私はもともと学歴至上主義者だった。だから自分が大学受験に失敗し続けたことにものすごい劣等感を持った。

今は学歴で測らない別のルートの立派な人生も様々にあると思えるようになったけれど、学力や学歴が身を助けることは大いにあると思っている。

私が資格取得をしやすいのは、四年制大学を卒業していることが関与しているのは確かである。

そしてその資格(認定心理士)のおかげで今の職に就けたことも確かである。

経済的にも社会的にも安定しにくい家庭環境の子たちにとって、学力や学歴というものがどれほど彼らの力になるか、計り知れないと私は思うから、

彼らが勉強に向き合えるように心から応援したい。

そう思っているけれど、それどころでない子たちが多いのが実際だ。

 

いい学校に通っていい会社に勤めていい人生を送れるなどとはとても思わないけれど、

勉強をすることを通して学ぶことの喜びを知れば、よい人生を選びやすいだろうと思っている。

(これは、人間関係とは別の次元でのよい人生だけれどね。

よい人間関係を築いて、幸せな人々の間に所属していれば、幸せな人生を送ることができる。

それは自分がどんな職に就くかということとはまったく別の話だ。)

私の子どもたちが真正面から勉強に向き合って、少なくとも長男は勉強することの楽しさを知っていることを、私は本当に嬉しく思う。

次男もとても賢い。

彼らの賢さを、どうか世の中の役に立ててほしいと願う。

 

 

 

ひとりの不登校気味の中学3年生の子が、冬になってから毎日朝から学校に通って、

受験に臨もうとしている。

その子の変化は本当に目覚ましくて、私はすごく嬉しいのだ。

夏の日、毎日部屋まで行って、体を揺すって、起こし続けていた子だ。

その子が、今は朝内線するとちゃんと起きていて、返事をしてくれる。

 

おはよう。起きれたんだね!

ーうん。

素晴らしい!

ーうん 笑

何時に行く?

ー8時前。

わかった、待ってるね。頑張ってね!

ーうん。

こんな会話ができるようになるなんて、とてもとても思えなかった。

自分で歩いて行きなさいなと思う気持ちもあるけれど、この子が学校に行けることが何より素晴らしいと思える。

だからにこにこと車で送迎させていただく。

 

「寒い〜!こんな寒いのに、教室ではマフラー取れって言うんだよ。ひどくない?先生たちはいっぱい着てるから平気な顔してるけどさー。」

学校帰り、乗り込むなりぶうぶう言う。

「本当にね。先生たちってあったかそうな格好してるよねー。セーラー服寒いのにね。」

「そうそう!体育もマジ死ぬ。」

「体育!寒いやろねえ。お疲れさま〜。男子は学ランの下に着込んでたりしない?」

「してるー。こちとらセーラーだから何も着れないってのにー。でもな、この前240デニールのタイツ、お母さんに買ってもらったから、体育の日以外はなんとか耐えれそう!」

「240デニール?そんなんあるんや?」

「むっちゃ分厚いよ 笑 もう手放せれん!」

こんな何と言うことのないやり取りが、本当に本当に嬉しい。

私は彼女の傍に居られるようになったんだなと思う。

そして、お母さんが娘にあたたかいタイツを買ってあげたという物語に触れて、

私は年中お金がないないと言っている困ったちゃんのお母さんのこともよく知っているから、

この物語の美しさがより輝いてみえるのだった。

 

 

 

高校生にも、不登校気味だったけれど、今はとても頑張って毎日登校している男の子がいる。

仲良しの職員さんがいる時だけ、事務室におしゃべりをしに来る。

彼のおしゃべりに横から相槌打ったり笑ったりしているうちに、いつ頃からか私にも話しかけてくれるようになった。

バイトに応募したいけれどとても不安だと言う彼を、じゃあ一緒にバイト先のお店に行ってみよう、何にも知らないよりはきっといいよ、と

冬休み前の日曜日に、担任の先生が連れ出してくださったことがあった。

私はその事情は知らず、たまたまその日曜日に勤務で、

珍しく午前中から出かけようとする彼と玄関で会った。

「おはよう」と言ったら、

「MさんMさん、ジャンケンポン!」と言ってきて、じゃんけんした。

「あー負けた〜!行ってきま〜す!」

ご機嫌な彼を見送って、後で担任の先生のお心遣いを知った。

とても不器用な彼だけど、大変な環境に生きている彼だけど、

こうやって彼とあたたかく関わり、彼を応援する人たちと共に、彼は生きていけるんだなって嬉しく思った。

このことをオンライン勉強会で仲間に話すと、いい話ですねってみんなが言ってくれて、

会ったこともないその男の子のこと、美穂さんからお話を聴いて、私も応援していることが不思議ですね、と言ってもらえた。

 

彼と仲良しの職員さんのうちの1人と私とで、バイトのことについておしゃべりしたことがあった。

「バイトの面接緊張する〜。店長さん優しそうだったけどね。」

「頑張れ若者!」と私が言うと、

「若者なんて言ってくれるの、Mさんぐらいですよ〜」と笑顔がこぼれた。

「昭和の雰囲気まとってるもん。同じ香りで落ち着くのよ〜。」と先輩職員さん。

「なぜかみんなに言われる、昭和昭和って。いや〜自分、若者だったって思い出したわ!」

 

おしゃべりが終わって彼が去った後、

「本当にいい子でしょう!」と先輩職員さんが私に笑顔を向けてくれた。

「うん、本当にいい子ですよね。」と私も心から言った。

「でもね、絶対バイトは通らんよ。こんな忙しい時期に、いちから教えるなんて余裕ないもの。ほんとに不器用だしね。でも、受けるだけ受けてみたらいいと思うの。どこか引っかかってくれるかもしれないし。

まあ、せっかく採用になってもすぐ辞めちゃうんだろうけど。今までずっとそうだったしねえ。でも、それでもいいの。仕方ない。でもあの子は本当によく頑張ってるんよ。」

何気ない会話のようだけど、この職員さんも、色々な思いを秘めながら、彼の後押しをできるようにと働きかけているんだと知った。

私は、彼はきっとできると信じようと決めている。

でもどんな風に彼を判断しようとも、私たちが彼を応援していること、彼とあたたかい関係を築こうとしていることに変わりはない。

長い時間の中で、たくさんの職員さんたちの働きかけのおかげで、見守りのおかげで、彼はここまで来れたんだと思う。この施設に彼が居ることは、彼にとってきっと良いことなんだろうって思えてしまう。

 

でもね、私たちが彼を応援したくなってしまうのは、彼が持っている人懐っこくて昭和感漂う落ち着きというストレンクスのおかげなんだとも思う。

そのストレンクスを使って、彼はちゃんと社会の中に貢献的に所属することができると、私は信じている。

 

 

中高生と付き合うのが難しいと思えたり、中高生の今後のことを考えると暗い気持ちになってしまったりしていたけれど、

少しずつ私は彼らの仲間になれてきたようだ。

ここから、彼らの役に立つような働きができればいいなと思う。

でも、おそらく私には何もできないんだろうけれど、いつも応援していることを伝え続けるだけで、

彼らがどんな状況でどんな状態であっても、私は何も変わらずに傍にいることを伝え続けるだけで、

彼らの力になれるのではないかなと思えている。