氷雪を融かす

氷点下の世界になってしまった。

真っ白になった道を踏みしめて仕事場へ行き帰りしている。

 

しかし新しいブーツはとても暖かくて、完全防水で、完全に雪道仕様。

職場で支給されたアウトドア用の高機能パーカーを着込み、ダウンコートを着る。

そしてこれもアウトドア用の防水防寒手袋をして、完全武装している。

今までの冬とは違って、外に出るのが全然嫌じゃない。

スポーツ用、アウトドア用のアイテムを仕事着にするようになったのだが、夏も冬もとても快適に過ごせる。

私は相変わらず全然スポーツをしないしインドア派だけど、大変お世話になっている。

仕事内容だって、今日はアクティブではなくて赤ちゃんや小さい子たちのお世話だったんだけど。

 

 

赤ちゃんはまだ首も座りきっていなくって、まだ俗世に慣れきっていなくて、

とてもとても可愛い。

毎日2、3時間は預かるので、事務所にベビーベッドを置いている。

ぐっすり寝ている時間がほとんどだったけれど、最近少しずつ起きていることも増えてきた。

みんなが交代で抱っこしたりミルクあげたりおむつ替えたり。

ミルクを欲しいと訴えてくるけれど、お母さんがきっちり3時間ごとにあげておられるので

できるだけ間隔が空くようにあやす。

 

一生懸命に小さい口を開けて、横を向いて、私の胸を小さな手で押したり、服を掴んだりするから

あまりに可愛くて、胸の奥が痛くなる。

こんな小さな赤ちゃん時代、私の子どもたちにもあったなあと思い出す。

抱っこしてそっと揺れながら歌うと、気持ちよさそうに目をつぶったりする。

あくびをしたり、くしゃみをしたり、しゃっくりをしたり、じーっと見つめてきたりする。

私たちは足の裏をこそばしたり、手を握ったり、背中をとんとんしたり、

側にいる職員同士で好き勝手に話しかけたりする。

 

この子が事務所にいるだけで、みんなが穏やかになってしまう。

ちょっと泣いたり声を出したりするだけで、みんなが笑顔で反応してしまう。

この子が生まれてきてくれて良かったと、心から思う。

この子が無事に大きくなってくれて良かったと、心から思う。

不安要素はある。何かしらの障害を抱える可能性もないわけではない。

でも、どんな障害を抱えることになるとしても、この子はこうやってみんなに愛されて健やかに育つだろう。

この子か私かどちらが先かわからないけれど、いつかこの施設から居なくなってからも、ずっとこの子の幸せを願うだろう。

 

生まれる前から最近まで、私はこの子について良い物語を描けない時期があった。

悲観的になってしまっていた時期があった。

でも、どんなことが起こっても、自分のすべきことに向き合って、受けとめていけば

耐えられないことなどないのだろうと思えた。

ここは、とても暖かい場所だ。

職員のみんなが、ここに来る人々を子どもたちを、我が子のように大事に思っている。

ここにいる限り、暖かい繋がりの中で生きていくことができる。

それは本当にそうだと思える。

その意味では、私はこの場所を好きになってしまった。

 

そして、日々の小さなお手伝いを重ねていくうちに、

利用者さんと子どもたちが、私と色々おしゃべりしたりしてくれるようになって、私と過ごす時間を楽しんでくれるようになって、

こうやってこの人々と暮らしていくことが好きになってしまった。

 

 

昨日も今日も22時に仕事が終わった。

同じシフトの先輩たちが「途中まで乗っていく?」と、昨日も今日も声をかけてくれた。

とてもありがたく、嬉しい。

でも私は自分の足で歩きたくて、凍った雪をざくざく踏みしめて帰った。

私のことを思いやってくれるその気持ちが、私をあたためてくれるから、寒くない。

嫌いだった冬まで、少し好きになってしまっている。