今日は11:15からの勤務。
早番の職員さんたちに挨拶して、今日のスケジュールを確認して、日報を読んでいく。
たいてい全ての日報に目を通すよりも前に、電話を取ったり、確認の電話をかけたり、
利用者さんの対応が入ったり、送迎が入ったり、イレギュラー事態が起こったり、
書類を作ったり、同じ担当家庭の職員さんたちと情報交換したり、
なんだかんだと仕事が入ってくるので、あまり落ち着いている時間がない。
一応12時から13時までが昼休み。だけど、送迎や電話対応や、なんだかんだと仕事は入ってくる。
今日はマクゴナガル先生が蟹汁を作って、みんなに振る舞ってくださった。
こちらでは松葉蟹のメスを親ガニと呼んでいて、どこのスーパーでも1匹600円〜800円くらいで売っている。
全長20cmぐらいの小さな蟹だけど、大根を入れたお味噌汁にして蟹汁、ご飯と一緒に炊いて蟹めしにしたりする。
蟹汁はこの地域のソウルフードなんじゃないだろうか。
初めて食べたときは感動して、私も家族が来るたびに作った。
もう私のソウルフードになってしまっている。
先日解禁になったところだから、と、試しに作ってみたからどうぞって、
蟹がはみ出しているお椀が台の上に並んでいた。
事務室中が蟹の匂いでいっぱいになる。
みんな、今日勤務でよかった〜♪と言いながら、しばらく無心になって食べた。
時々、「美味しい…」とため息をつきながら。
あたたかいものを食べると、心もあったまるのはなんでだろう。
あ〜幸せ〜このまま帰りたい〜なんて上司も一緒になってため息ついて、まったりした。
同じ釜の飯を食うっていう言葉があるけれど、
私は大学の時も、友だちや先輩や先生方と、何度も何度も同じ釜の飯を食って同じ鍋をつついて、
あ、それどころか一緒に収穫した野菜を一緒に煮炊きして、それからお酒も酌み交わして、
たくさんの幸せを感じて仲間になってきたけれど、
この職場でも同じ釜の飯を食って、同じ鍋を食べることができる。
幸せだなと思う。
一緒にあたたかいものを食べると、心が近くなるのはなぜだろう。
今日もなかなかに大変な日だったのだけど、
マクゴナガル先生の蟹汁を食べて元気になった我々は、
結構大変な案件のあった昼休憩後のミーティングも良い雰囲気で話し合うことができて、
その後もそれぞれの持ち場で協力し合うことができた。
些細なことでも、すぐに相談できる関係ができてきた。
産休から復帰されたベテラン職員さんがとても良い雰囲気を作ってくれる方なのもあって、
一生懸命に働いているみんなをとても素敵だと思うし、私も一緒に働けて嬉しいなと思ってしまう。
考え方や良いと思う価値観が全く違うところもあるけれど、その違いは違いとして、
利用者さんたちや子どもたちのために一生懸命支援しようとしていること、
あたたかい心で接していること、
彼らの壮絶な過去をなんとか良い未来へつないでいこうとしていること、
それらは全く私と変わらない。同じ目標へ向かっていると思える。
悲惨な現実を前にしても、自分にできることを探して、
沈んでいきそうな方が少しでも笑顔になれるようにと、明るく、冗談も言いながら話を聴いていくみなさんの姿から、私は多くのことを学んでいる。
こんな現場で修行をさせてもらえて、本当に幸運だと思う。
起こることは全て、最も良いことが起こっているんだという言葉を、信じていいんだなと思えてしまう。
☆☆☆☆☆
3年生のMくん。
今日は珍しく朝から学校が嫌だと言っていたそうで、早退してきた。
夕方は、マスクをしなかったり、部屋の中でボール遊びをしたり、俺宿題破り捨てたから今日は宿題ないんだで!と言ったり、不適切な行動ばかりしていた。
ああ、相手役は私だったのかな。どれも私が見ているところでしていたものね。
暗くなってからお母さんが出かけられたので、事務室の横の預かり室で過ごすことになった。
事務室で私が席に座って日報を読んだり書いたりしていると、
「なあなあMさん、レガースって知っとる?」と声をかけて来た。
「レガース?」
「ソックスは知っとる?」
「靴下?」
「サッカーで使うんだで。知っとる?」
「あ、レガースってすね当てだね!蹴られても大丈夫なようにガードするやつ?」
「そう!俺な、レガースとソックスあるんだで。」
「へえ〜。」
「なあなあMさん、来て〜。」
やたらと甘えたモードのようだ。いつの間に不適切な行動モードからスイッチが切り替わったんだ?
まあいい。Mくんが私とふたりになれる機会はあまりない。
仕事の手を止めて、預かり室に入って、Mくんの隣に座った。
「なあに?」
「あのな、あのな、パリサンジェルマンって知っとる?」
「パリ?」
「サッカーのチーム。ネイマールって知っとる?」
「ネイマール!聞いたことあるよ。すごい選手なんでしょ?」
「うん、そうだで。あとな、メッシって知っとる?」
「メッシは知ってる!」
「パリサンジェルマンはな、メッシとネイマールがいてな、日本人もいるんだで。」
「そうなんだ。」
「見て見て!」
MくんはYouTubeをつけて、ネイマールやメッシのファインプレー集を見せてくれた。
「ほら、ここでトラッピングしてな、ここで相手を抜いて、シュート!すごいだろ!」
「ほんとだ、すごい!」
「それでな、これはな、…」
Mくんは次々とネイマールとメッシと、他にも何人かの選手の凄いプレーを紹介してくれた。
Mくんは運動が得意で、スポーツ全般好きなのだ。
私は運動音痴でスポーツに無知だが、ここは「相手の関心に関心を持つ」という勇気づけの発揮しどころと思ったので、
足りない女子力を総動員して、女子っぽい感じですご〜い!かっこいい〜!と感心した。
Mくんはとても嬉しそうにしてくれていたので、多分間違っていなかったと思う 笑
その後、超絶テクニックを持つ小学生の動画を見せてくれた。
目隠しでリフティングしたりしている。
「この子凄いだろ?」
「すごいねえ。でも、Mくんもできるんじゃない?」
「練習せんとな。この子はな、いっぱい練習してるからこんなにすごいことできるんだ。なあ、Tさん、この子すごいでー。俺これできるかなあ?」
お兄さん職員さんを呼んで、同じことができそうかどうかふたりで研究を始めたので
私は席に戻った。
しばらくすると、「なあなあ、Mさん、来て。」
またお呼びがかかった。私と一緒に居るの、楽しいんだな。よかった。
「Mくんはサッカーも好きなんだね。よく知ってるね。」と言うと、
「サッカーも好き。でも俺は野球だからな。」と言って、今度は野球のファインプレー集を見せてくれた。
「Mくんは野球のどんなところが好きなの?」
「あのな、バットにボールがカーンって当たって、飛んでくのが気持ちいい。俺のバットはカーンっていい音するからな。」
「へえ〜すご〜い!」
「うん。ほらな、この人はフォームがいいだろ、だから遠くまで飛んでいくんだで。」
男を立てるということ、この歳になって初めてその大切さとコツを掴んだ気がするぞ 笑
しばらく見て、「あーお母さん遅いなあ」と数回言った後、
「あのな、俺な、サンジェルマンのユニフォームとソックスと、あと、レガース買ってもらったんだ!」
なるほど、ここにつながるわけか。
「持ってきてあげるな!」
ひとりで部屋に上がるのが嫌だから、預かり室でお母さんを待っとくって言ってたのに。
男気、育ってるな。
私はちゃんと女子役ができているようだ。
ありがとうね、私を抜擢してくれて。
「ほらな、これがレガース。これがユニフォーム。ネイマールって書いてあるだろ。背番号は10番!それでソックスがこれ。あとはスパイクがあったら、サッカーの人だで。」
得意そうにお宝を見せてくれた。
「見せてくれてありがとう。ほんとだ、ネイマールって書いてある。」
「そうだで。ネイマール!」
ああ、スタープレイヤーになりたいんだな君は!
今日は珍しく強気が続かなかった日だったんだね。
いつも学校も給食も、すごくすごく頑張っているんだろうね。
当たり前だし、と憎まれ口を叩きながら、涼しい顔をしてやって見せたいんだろう。
頑張り屋の君が、頑張り過ぎなくても十分幸せに所属できるように、私には何ができるだろう。
時々、今晩みたいに求められたら、女子役をやってみるぐらい、いつでも引き受けるよ。
色々なペルソナで、色々な良い関係を作っていこう。