休みの次の日の仕事は、いつもより少し楽しい。
帰ってきたなあ、と思う。
私はどうなってしまっているんだろうか。
子どもたちや利用者さんたちとおしゃべりしたり、御用聞きをしたりお手伝いしたりするのが、楽しいと思えてしまう。
同じ釜の飯を食うという言葉があるけれど、ある意味でここで過ごすということは、生活の一切を共にするということでもある。
同じところで寝起きしている。ここでみんなで生活している。
みんな一生懸命に暮らしている。
ここに居られるのはみんなに限りがある。この日々を、愛おしいなあと思えた。
考え方は違うけれど、職員のみなさんと私が仲間になってきたということがとても大きいと思う。
ここの一員になれたなと思う。
利用者さんの対応については、任せてもらえることが増えてきた。
それは多分、私が小さくてちょっと面倒な仕事を楽しんでしているからだろうなと思う。
今日は、昼過ぎに「カボチャが硬くて切れんだが〜」と内線がかかってきた。
先日、支援施設からうちの施設のみなさんにと、たくさん野菜やちくわをいただいたのだけど、そのとき立派なカボチャをもらったのだそうで。
「カボチャ切りに行ってきます!」と報告すると先輩たちが「頑張って!」と笑いながら応援してくれた。
「カボチャ、硬いですか?」
「うん、切れん!」ちょっと風変わりな利用者さん。にこにこしながら、私を迎え入れてくれた。
「ここまで包丁入れたんだけどな、もうここから入らんだが。」
「わかりました!やってみますね。」
「包丁、これ。」
「…あ、ほんとだ、めっちゃ硬いですね。」
「うん。硬いだろ!」
「めっちゃ硬いです。まずヘタ切り落としますね。えい!」
ヘタを切って安定させてから、苦労して大きなカボチャを真っ二つに切った。
「やったー!」
「おー!」利用者さん、満面の笑みで拍手をしてくれた。
半分のカボチャを、食べやすい大きさに切って、と言われた。
硬い皮を削いで、ある程度の大きさに切った。
隣で彼女は鶏肉を炒めている。
本当にわけがわからないんだけど、私はすごくありがたいなって思えて
この黄金色の光があふれる昼下がりを、いつか私は大切なものとして思い出すだろうと思った。
この人とは、ちょっとずつちょっとずつ、近づいてきた。
ちょっとずつちょっとずつ、私に話をしてくれるようになった。
気分の波が大きいから、何も言わない日も多い。
どんな日も、私は会釈して、挨拶をして、彼女にそっと近づく。
様子を聞いて、湿布を貼ったり、薬を渡したりする。
はい、貼れましたよ。お大事にしてくださいね。おやすみなさい。
そんな風にこの人と関われる時間が、なぜかわからないのだけど私は好きだったりする。
うなずくだけの日もある。20分ぐらい過去のことをお話ししてくれることもある。
急に語気荒く、文句を言い始めることもある。
そうなんですね、と話を聴いていると、すぐに陰性感情は静まって、「そうなんよ!」と笑顔に変わる。
私では対応しきれないことも多いので、「ごめんなさい、それは私はわからないです。Yさんに伝えておきますね。」などと言うと、
「うん、うん。」と、新人の私を寛容する笑顔を見せてくれる。
様々な私の先入観を打ち壊してくれた人なのだ。
目の前の「この人」と一生懸命に向き合っていけば、心を通わすことができると教えてくれた。
そして心が通い合うということは、なんて嬉しいんだろう。
事務室に帰還すると、カボチャは切れましたか?と所長が笑いながら尋ねられた。
お疲れさまー!と先輩たちにも笑顔で迎えられた。
日報にはごくごく簡潔に、カボチャを切りに訪室したことを書いた。
夜勤で日中のことを知らず、その日報を読んだお兄さん職員さんは、Mさんめっちゃ面白いんですけど、と言った。
多分ね、カボチャを切るという任務への私の喜びがみんなに伝わってしまっているんだと思う。
利用者さんにどんどん関わっていくのがいいよ。自分から関係を作っていくのが大事だよ。
ベテラン職員さんからそのように教えてもらった。
その職員さんは、Oちゃんのトークンの検討会議で私が正直な意見を言ってから、私がその時の彼のアドバイスを受け入れてから、
心を開いてくれたように思う。
確かに彼はいつもどんな時でも、利用者さんのところへすぐに駆け寄っていく。すぐに内線をかけている。
利用者さんをよく観察して、状態に合わせて声のトーンを変えながら、いつでも優しく、明るく接している。
私と考え方は違うところが多いけれど、彼の接し方は真心がこもっていて、とても協力的な良い関係を作っている。
すごいなあと、私も物怖じせずに利用さんにもっと話しかけてみようと思えた。
私も真心から利用者さんたちと良い関係を作っていこうとしていることを、同じ理想を持っている仲間であると彼が感じてくれたのだろう、それも嬉しかった。
利用者さんと関わる機会はいくらでもやってくる。
夕方、別の利用者さんが、ベテランお姉さん職員さんはいますか?と尋ねてこられた。
「今日と明日はお休みで、明後日出勤ですね。」と言うと、
「あー…しばらくおられないんですねー」と残念そうに言われた。
「何かお伝えしておきましょうか?」
「いいえ、いいです。ちょっと愚痴を聞いて欲しかったんです。」
「私で良ければ聴きますよ…」
「いいえ、もうね、いつものことでうちの子がねー…」と、今まで私には話されることのなかったことを、少し話してくれた。
深い話はそのお姉さんに話したいのでしょう、子どものことはさらっと言われただけだったけれど
そこから髪型の話になり、今晩直撃するという台風の話になり、
「Mさん、今日の帰り気をつけてくださいね。明日も出勤?昼からなら大丈夫かなあ?お気をつけてくださいね。」と言ってくれた。
とても嬉しかった。
この人とも、少しずつ少しずつ近づいてきた。
何度か彼女の重い荷物を台車で一緒に運んで、少しずつ心を開いてくれるようになった。
今日の子どもたちとの関わりは、学校のお迎えに行ったり、歯医者さんの送迎をしたり、夜ご飯を準備したり、お風呂に入れたり。
私の仕事は、生活することそのもののお手伝いだ。
決して得意ではないけれど、お母さん業をやっていてよかったなと思う。
そして再びこういう形でお母さん業ができることも嬉しい。
友だちに仕事の話をすると、どの友だちからも、「楽しそうでよかった」と言われる。
いやいや、私はこの仕事を楽しんでなんか…って言いかけるけど
いや、楽しんでいるような気もする。
理想とはあまりにかけ離れているけれど。
私は人と関わり合うことが好きなのかもしれない。