優雅な旅

今週はオンライン勉強会に3日参加でき、

仕事は夜勤もあり、電話も取れるようになり、日報もたくさん挙げられるようになり、

お弁当を毎日作って持って行き、子どもたちと遊び、

毎日たいへん充実していた。

おかげで最近まったく資格試験の勉強ができていなかったのだが、

今私は某町に一泊旅行に来ている。

往復するより一泊した方が安かったので。

つまり今日が資格試験の1日目だったのである。


朝から特急の停まる最寄り駅まで45分歩いて、特急に乗り、

降りた駅から試験会場である某短大へ向かった。

駅から徒歩25分と書いてあるので、グーグルマップを見ながら歩いていたが、

どう考えてもどんどん人里離れていく。

(ちなみに最近なぜか私はグーグルマップで誘導してもらえなくなったので(多分セキュリティー強化してしまったため)、ただの「地図」である)

さっきの通りに短大の案内標識出ていたから、この道で合っているはずだが、私は自分の勘を信じられない。

私は素晴らしく方向音痴なので、しかし今日は道に迷うのに1時間予定を組んでいる。

この山登って、間違ってたら嫌だなあと思いながらも、旅行鞄をかついで上る。

徒歩25分なんて絶対あり得ない。この坂急過ぎる。


山の中腹にあった私の小学校と中学校を急に思い出した。

毎日重い荷物かついで、明日もまたこうやって上るのかーってうんざりしながら、息を切らして上っていた。

ちなみに私の高校も山の中腹にあった。

毎日毎日坂を上っていた。よく頑張った。

否応なく険しい坂を上る12年間を過ごして、それで私は体力が人並みについたんだろう。

平地の学校に通っていたら、もっと体力なかったかも。


などと解離しながら上っていると、落ち葉を掃除している作業員さんがいた。

短大ってこの道で合ってますか?と尋ねると、

あのカーブ曲がった先に見えてきますよ。歩いて来られたんですか?!

と教えてもらえてほっとした。

ですよね、普通この坂は歩かんわ!

所要時間は直線距離で測っているようだ。

登山にはプラス10分ぐらいかかり、無事試験会場に到着した。



急にひらけて、鮮やかな若葉に囲まれたところに着いた。

試験教室の窓からは、梢でさえずる小鳥が見えるし、なぜか小さな子たちが芝生で遊ぶ声も聞こえる。

のどかだ。

来て良かったなと思った。


試験は、9科目のうち半分ぐらい合格できたら十分だと思っている。

半年後にまた受験して、それで受かればいいと思っている。

そのせいか、かえって落ち着いて問題が解けた。



職場の2階や3階の窓から外を覗くと、カゴの鳥になったような気分になる。

みんなコロナのせいだと言うけれど、問題はこの行動規制だ。

できる限り県外には出るなという通達。

でも私はまだ自由だ。

私の心は自由だ。

仕事を辞めれば、時間も行動も、もっと自由になる。

私はこのカゴの中に、今自ら入っているのだ。

しかし、自分から納得してカゴに入っているわけではない人たちが多くいる。

そのことに、私は多分気づいていなかった。


それで世界が変わってしまった今、若葉と小鳥たちの美しい庭を眺めると、

こういう日常から離れる時間が、私にはとても大切なのだと感じた。



ちょうど25分ぴったりで駅まで到着し、寂れたビジネスホテルにチェックインした。

これから、吟遊詩人という意味の店名のイタリアンレストランを探しに出かける。

母と一緒に行ったことのある店だ。

もう18年も前になる。まだあるだろうか?



<追記>

吟遊詩人は、あった。

私が知るよりもずっとずっと以前からの佇まいのままであろう、変わらずにあった。

小さな、アットホームなところ。

不思議と力が湧いてくるような料理を作ってくれるお店がたまにあるが、やはりここもそういうお店だった。


仲の良さそうな母娘が入ってきた。とりとめなくおしゃべりが続く。

ふと、耳慣れたジャズ(On the Sunny side of the Street )が流れてきた。

父のバンドがよく演奏していた曲だ。

私は今、ひとり旅の最中なのに、家族といるように感じていた。


濃いコーヒーを飲んだのに達成感と多幸感で眠たい。

明日早めに起きて勉強しよう。