定点観測

今日もカウンセリングだった。

これで、現在のクライアントさんたちとの初回面接はすべて終わった。

これからそれぞれのクライアントさんとどんな旅ができるのか、とても楽しみに思っている。

 

毎回の面接の最後に、宿題を出すのがアドラー心理学のカウンセリングの特徴だ。

というのは、その宿題が、カウンセリングにおける「助言」にあたるからだ。

この辺りはまだきちんと整理して学んでいないので、

正確な言葉を使えていないかもしれない。

ただ、パセージも同じように宿題を出す構造であることから、

その意図と効果については、私は実感としてわかる。

 

野田先生は「パセージの本体はコースではなく、(宿題である)課題シートです」と、いつもおっしゃる。

コースでみなさんと話し合い学び合ったことを、メンバーさんたちは持ち帰って、

実際に、子どもさんや家族を相手にパセージの実践をしてみる。

その実践の記録を、お芝居のシナリオのように書き留めるのが課題シートだ。

課題シートに加えて、宿題も出されて、

それは毎回の章で学んだテーマに関わる技法の練習にあたる。

たとえば、「開いた質問を使ってみましょう」とか、「不適切な行動の中にある適切な側面に正の注目を与えてみましょう」とか。

この課題シートと宿題について、真面目に熱心に取り組まれるメンバーさんは、

本当にびっくりするぐらい、パセージの実践が上手になって、

考え方がいつの間にかパセージナイズドされ、

コースが終わる頃には、アドラー心理学の思想もつかんでおられるように私は感じる。

 

リーダーの腕の良し悪しがあるかもしれないって思う方おられるかもしれないけど、

パセージリーダーは、そのリーダーの個性を生かしていくお仕事だと思うので、

どんなリーダーが腕のいいリーダーかは、わからないと思う。

未熟なリーダーであっても、メンバーさんと一緒に考えていこう、

一緒にパセージを実践して、失敗しながら、一緒に学んでいこうっていうリーダーは、

メンバーさんにとって、とても勇気づける力の大きいリーダーだと思うし。

何十回ものパセージでリーダー経験のあるベテランリーダーさんは、

蓄積されているものが素晴らしいので、

メンバーさんにとって安心感があって、援助力の大きいリーダーだと思うし。

明るくて楽しい場を作るのが上手なリーダーさんとか、

じっくりお話を聴いて癒しを与えるリーダーさんとか、

もう本当に様々な個性と、それを生かしたリーダーがいると思う。

どんな個性も素敵だけど、良いリーダーの条件は、

メンバーさんにパセージの内容をより良く学んでもらえるような働きかけができることだと思う。

 

その働きかけとは、具体的には、

課題シートを正しく書いてもらい、宿題を実践してもらえるように勇気づけることが一番大きいのかなと、今私は思っている。

この目的を達成するためには、パセージリーダーのお作法を守ることが必要になってくる。

でもパセージリーダーのお作法を守ることが目的ではないと思う。

サブリーダー研修や、独り立ち1回目パセージのときの

自信のなかった新米リーダーの私に言ってあげたい(笑)

大事なのは目的ですよ。

 

 

課題シートや宿題をきちんと実践して、記録していると、

自分のくせが見えてくる。

私はいっつもこれやってるよねって、わかってくる。

これを冗長性という。

だんだん上手にパセージ使えるようになってきたけど、

こういう状況だと私はパセージかなぐり捨てるな、とかもわかってくる。

まあ、これは私のことなんですけど。

その、こういう状況ではなんかうまくいかないねっていうところがわかってくると、

その状況や、そのときの自分の状態を観察することで、

事件が勃発する前に、立ち止まることができるようになってくる。

そして、立ち止まってからどうするかは、

パセージで色々な方法を学んだり、みんなで代替案を考えたりして、

ゆっくりと工夫していく。

課題シートとはそういう風に、パセージの本体になっている。

 

まずは気づいて、立ち止まること。

それから、新しい方法を工夫して、

実際に次の似たような機会に試してみて、

その効果を検証する。

アドラー心理学の実践は、このように、認知行動療法のひじょうに有効な技法をベースにしている。

きちんと科学でしょ?いわゆるPDCAサイクルとかいうのと原理は同じだ。

そして、この方針で進めていくためには、まず気づくということが第一歩になる。

まず気づくためには、定点観測が一番有効で、

いつもこういう場面で自分はこういう行動をする、

そのときの自分の感情はこのような点数を計測する、

ということを記録していくことが大切だ。

そのための宿題、課題シートである。

そしてカウンセリングでは、それが宿題にあたる。

 

 

ということは、カウンセリングでも本体はもしかすると、宿題なのかもしれない。

カウンセリングはパセージのように章構成や構造が明確ではないが、

こちらの頭の中では、同じように治療のステップのシナリオを持ちながら、

クライアントさんと相談して調整しながら、

少しずつクライアントさんが成長できるように援助していくものなのかな、と思う。

私は駆け出しのカウンセラーなので、場数が圧倒的に少ないが、

大事なのは目的だよ、とわかっておきたい。

カウンセリング技法であるエピソード分析が上手にできることが目的じゃない。

上手にエピソード分析をすることの目的は、

クライアントさんがご自分の冗長性に気づき、

新しい方法を試してみようという勇気を持って実践できるように

勇気づけることだ。

そのためには、常にクライアントさんとの良い関係を築き続けることが必要だ。

 

 

今の私を、この拙い私を、クライアントさんたちは選んでくださった。

私は、今できることを精一杯していこう。

クライアントさんたちの物語を、美しい物語に変えていくための旅を、

その過程をご一緒に歩めることを、幸せに思う。